国鉄では戦後になっても長距離列車は機関車による客車牽引が主流で、電車は市街地近郊などの運用に限られていました。しかし、輸送力増強と動力近代化の観点から長距離列車の電車化を進めるため、1950(昭和25)年に80系準急形電車が誕生します。客車に準じ前後に出入台を設けた車体や中間電動車を中心とした組成、オレンジ色と緑色の塗り分けを採用したほか、1950年後半以降の増備車は前頭部が従来の3枚窓から大きな2枚窓へと変更、その優雅なスタイルは「湘南顔」として一世を風靡し、国鉄から大手・中小私鉄に至るまで全国の鉄道に類似のデザインが波及するほどの影響を与えました。この80系をベースにさらなる車体の軽量化や走行性能の改善を重ね、1957(昭和32)年には90系(後の101系)電車並みに走行性能を改善した新性能電車91系(後の153系)が登場しました。貫通扉の必要性からを正面2枚窓ではなくなった代わりに「パノラミック・ウィンドウ」と呼ばれる視界の広い前面窓を採用し、「東海形」としてその後の鉄道車両設計に大きな影響を与えました。153系は165系や455系など後の急行形電車の始祖となったほか、その正面形状は111・401系などの近郊形電車にも波及しました。本書では、湘南形80系から東海形91系に進化するまでの過程を、製造年ごとの差異を踏まえ詳細に解説します。
■掲載内容「湘南電車」塗装イメージスケッチカラーグラフ「湘南形から東海形へ」1.電化の推進と長距離用電車運転の実現へ2.湘南形電車の開発 2.1 「湘南電車」の構想 2.2 電車用動力台車設計研究会の設立 2.3 「客車屋」が設計に参画した湘南電車80系 2.4 80系電車の詳細3. 80系電車の登場 3.1 超短納期と不慣れな工程管理 3.2 試運転・営業開始早々のトラブル 3.3 製造年次ごとの差異4.湘南形前面を採用した70系5.モハ91系 東海形電車6.その他の東海形前面の車両 6.1 モハ82系 修学旅行専用電車 6.2 モヤ94形 交流試験電車Column モハ80系・70系の台車/80系の試験台車